大好きな漫画、Landreaallランドリオール)の15巻が発売されました。遅くなってしまいましたが、少し感想なんか書いてみようと思います。


●Act.75 curiosity seeker


「どうして私たちはここにいるんだ」
「どこに行きたいって聞いたら娼館って言ったから」
「まさか妹が一緒に入ってくるとはなー」

娼館。…娼館!?
友人の妹相手にそんな場所をリクエストするご学友どもも大概ですが、それを事も無げに案内してしまうイオンの奔放さが色んな意味で心配です。この子は娼館というものがどういう場所か理解した上でのこの態度なのかな…。いや昔の「一晩いくら?」発言もあるし、きっとよくわかってないよな…。


「お兄も困った顔してたし」
「…困ってたあ?」
「うん。すっごく困ったカオしてたよ?」

余人には同じにしか見えないDXの表情もこの一家にかかれば実に豊かな表情に感じられるのだとか何とか。この兄妹、というかこの家族は本当にラブラブが過ぎますね。分かり合いすぎだろうお前ら。昭和お父ちゃんが「オイ!」と言ったら昭和お母ちゃんがすかさず真意を読み取って新聞/ごはん/風呂を与えるようなアレの凄いバージョンみたいな感じでしょうか。ある意味ティティ・トリクシーの天恵テレパシーよりすごいな。天恵一家。


「クエンティンはどうして俺を王にしたいんですか?」
「あなたが王になりたくなさそうだから」

クエンティンの狙いは王政の廃止とのこと。おお、14巻の感想でちょろっと書いたことが微妙に当たっててちょっと嬉しいですよ。王政廃止を推し進める立場の玉階だとか、一言にキングメイカーと言っても本当に色々な立場のものがあるのですね。
しかしこの「王政の廃止」という言葉、実際DXにとっては非常に魅力的なんじゃないか、と思えてしまいますね。「継承候補者」という立場には煩わしさを覚えることも少なくなかったはずですし、何よりイオン、父母が権力のゴタゴタに巻き込まれるのはDXにとっても辛いことであるはず。
王都に来てすぐの頃のDXなら飛びついていたかもしれない誘い文句ですが、さてこの数ヶ月を経てDXは何かが変わったのでしょうか。



●Act.76 過去からの使者


「ザンドリオを守っていた友好部族の人々を」
「アトルニア騎士団がやってきて殺した…」
「…敵と間違って?」
「うーん。そういうことになっているから」
「講義でその話が出ても黙って聞いていた方がいいね」

今回は顔見せ程度、ということで、クエンティンも答えを急がない様子。本来の用件であるリゲインへの報告に場面は移りましたが、……。こちらはこちらで中々にエグい話だなあ。「国ぐるみで歴史を捏造して過去の惨劇を隠していた」という、やけに生々しくリアリティに溢れた話は何やら背筋が寒くなります。
己の残酷な過去を笑顔で話すクエンティンにも切なくなるのですが、そこに

「でも」「生きててよかったって思えるなら」「よかったですね」

と返すDXはやっぱりいろんな意味で只者でないと感じました。この返しは出てこない。少なくとも俺は絶対に出せません。ギリギリすぎる。


「行方不明の王女についてのの話だ」
「『アブセント・プリンセス』? 本当にいるんですか?」

もう少し話は移り、今度は王女の行方不明話。読者にとっても初耳なお話ですが、それはまあ当然ですね。一般国民には緘口令が敷かれてたそうだし、今までの物語は主にDX視点ですし。
捜索先がクレッサールというのもずいぶん突飛な話に思えます。前王の無謀な侵攻、過去の惨劇と何か関連はあるのかな。


「それは…全部とは言わないがほとんどは嘘だ!」
「王城の、特に恋愛についての噂は!」
「あらほとんどだったんだァ、全部じゃなくて」
「気にしてないってば。ありそうだけど」
「年頃の息子の前でそういうのやめてくれませんかあー」

やだなにこれ、やきもち焼いちゃうファレル母さんちょうかわいい。ホントにこの家族は年齢問わずどいつもラヴい人たちばかりでカワイイですね。
それはさておき、『よりによって』『気高く孤独な』など、リルアーナ王女へのファレル母さんの物言いが、何やら知り合いへのそれのようにも受け取れるのはどうしたことなんでしょう。王城へ花嫁修業に行ったときに知り合った…? いやタイミングがぜんぜん違うな。んんー??


●Act.77 未来からの使者


「王女は既に亡くなっています」
クエンティンによる王女捜索の報告。
…なんですが、どうしてだろう、すごく個人的になんですが、この報告を何となく疑ってしまいたくなる自分が。クエンティンの微妙なタメ、リドの反応とかがそう思わせたのかな。
実際クエンティンが偽りの報告をするメリットなんて思いつかないですが、ってそうか、書きながら思いましたが、「円卓が開かれること」自体がクエンティンにとってはメリットになり得るのかな。王女の生死不明を原因とする円卓の停滞はクエンティンの望むところではないでしょうし、もし生きていて王位継承者となることもそれはそれで不具合になるはず。王政廃止の橋がけとなる可能性を持つDXを推挙したいクエンティンとしては、偽の報告もメリットが無いわけではない、かな…。
いやまあ、こんなん言っても9割方ただの妄想ですが。実際そんなんだったらクエンティンが王女を○してなければならないわけで、何だかもうそれはドロドロすぎる。


「全部食べちゃダメよ」「ハーイ!」
「全部飲んじゃダメよ」「はーい」
「家の刃物全部研いじゃダメだぞ…」「ハーイ(はあと)」

DX一家が可愛すぎて生きてるのが辛い。何だよこれは! 萌え殺す気かよ!!
シンクロしまくりで家族すぎる3人の反応だけでもごちそうさまですって感じなんですが、一際光ってるのはファレル母さんですね。ルーディーの言葉じゃないですが、砥石もらってトキめく領主婦人ってホント何者ですか。おかしい。おかしいくらい可愛い。


「洞窟狂に言われたくない」
「自爆剣士」
「ケンカをするな」

若者どもin飲み会。親の前でイイ子ちゃんしてたライナス&ルーディーは正直なところ面白キモかったので、こうポンポンと言い合ういつものノリは少し安心します。それにしてもこの子たちは普通にお酒を飲むよね。DXはビンで飲むよね。


「まー息子たちも娘もちょっとやそっとじゃ壊れたりしないから」
「その調子でどつき合って適当によろしくしてやって」

『息子たち』。ルッカフォート的には六甲はもうカンペキに「家族」なんですよね。問題と言えるのは六甲の心構えだけなんですが、さてはてどうなるものか。
ともあれ、さりげなく、かつ自然にこの言葉が出ているファレル母さんに改めてグッと来ました。可愛らしくてファンキーで、そして決めるところは決める。この巻はいろんな意味でファレル母さんの巻であると言える気がしますね。


「あ、でも」
「ベクトルと加減を間違って娘の方を傷物にしたら」
「針金で玉つなげて火で炙っちゃうからね?」
「おばさんそーいうの得意だから」

ええ、いろんな意味で


●Act.78 笑い猫の幸せ


「本当は師父のコレクションなんだけど」
「俺が整備を覚えたら俺のみたいになっちゃってさ」

この複座とやらはバチカンへ旅した時に乗ってたものですか。ファンタジーオンリーかと思いきや、結構メカメカしい小物も出てくるんだよなあ(ジェムで動くという辺りはあちら寄りですが)。この複座・単座しかり、火竜での大砲しかり、今のところそういったものはあらかた師父が関わってるようにも思います。師父のお国はキカイが発達した国だったのですかね? 未知の国ジパーングなの?


「将軍の名前で騎士候補生を煽った件だろ」
「DXなら平気だった?」
「…想像じゃなんとも言えないけど」
「必要なら覚悟はする」
「俺なら自分で自分の使い時を決めるかなー」


「お兄だったらきっと自分の使い方を知ってるし」
「どうしても必要だったらちゃんと覚悟して引き受けたと思う…」

(13巻でのイオンより)


イオンが想像するDXと現実のDXのブレの無さといったらもう。ホントに心の底から通じ合ってるなーこの兄妹は。
しかし実際問題、DXがスピンドル事件の場にいてもそうそう大きな違いはなかったのでしょうね(イオンが苦戦するくらいの場でしたし)。そういう意味で言うなら、DXはむしろ「いなかった」ことによって評価が上がっているのかも知れないなあ。上がっているというか、一般生徒がDXにイメージする超人性が失われなかったというか。


「いたずらが成功したみたいな顔してるよ」
「DXはフィルのチェシャ猫でいたいんだ」
「そうかも」
「俺の存在に意味なんてない」

俺の存在に意味なんて〜という言葉は半ばDXの口癖みたいになっちゃってますよね。レイ先輩に言われたことが引き金なのか、それとももっと前からなのか。
少なくともフィル、竜胆、ルーディーら友人達に与えた影響に意味がないなんてことはまったく無いと思うんですが。将軍の息子という立場からも自分を出すことが躊躇われる人生だったのでしょうが、この必要以上の卑下はDXの弱点にもなり得る気がします。


「ブドウが嫌いで家出…?」
あの冗談みたいな一言が本当になるのかよ…! 猫はしかの時も相当ビックリさせられましたが今回もなかなかのサプライズでした。ほんと油断ならねーですねこの漫画は。


●Act.79 BIY&GIRL


『ディ…、育ったな』
「お前ほどじゃないよ」
「れ…槍熊って喋るんだ!?」

しゃべるモンスターかー。そういうのもいるんだ。人型モンスターだとか、竜とかのもともと知性が高いモンスターが喋るタイプは他作品でもわりと見ますが、完全に野生なケモノが言葉を覚えてくってタイプはあんまり見ない気がします。変わってるなー。
しかしこのボーイ君、六甲のクナイも何気に全く効いてないです。やっぱり「モンスター」ってのは結構マジメな脅威なんですね。


「俺は槍熊の――」
「群れから追放されたんだ」

そうして語られる槍熊たちとDXのあれこれ。
中でも印象的なのはやはりDXが過去に人を殺したことがあったということ、そして群れから弾き出されたということ、ですかね。「ほんの数年前」とは言いますがやはりまだ小さいころのこと、DXの人格形成に大きな影響があったのは間違いないのでしょうね。
ブドウを食べ続けるという贖罪の形も痛々しいです。「俺は何も無い、からっぽだ」という言葉もここが一因となってるのかな…。


●Act.80 Ozumo's Book


『本当はおまえを怒ってるやつはもういねえんだ』
『でもディ、いつまでも一人で食いに来る』
『おれたちは心配してた』
『同族殺しはにんげんの群れに戻れねえんじゃねえかって』
『おまえ遠くへ行ってたろ』
『もっと遠くに行っていいぞ』
『おまえが来れなくても』
『おれたちが食うから』

もう誰も怒ってなんかいない。お前は俺たちの仲間だ。
DXが槍熊たちに改めて仲間と言われ、許しの言葉を受け取れたのも、友人達のおかげと言って差し支えないでしょうね。重い意味を持つブドウを真っ先に取って食べたのがライナスだというあたりも何やら感じるものがあります。
「――ありがとう」と言ったDXの複雑な笑顔もまた印象的でした。笑顔というには余りにささやかですが、DX的には相当の笑顔。このことによって、自分を卑下するDXの性質が少しでも上向きになれば良いのですけども。


それはそれとして、野生の獣に伴侶を心配されるDXは言っちゃあ悪いが大爆笑でした。その上野生の獣に慰められるDXがまた。お前、それはなんというか、なんというかどうなんだ。


「それも――シナリオ?」
「父さん、革命の真実って――」

おお、いよいよ革命の真実について語られる時が! リゲインが王を殺したということは読者的には「クレシェンドマリオン」で知っていたのでそのこと自体には驚きはありませんが、その理由、経緯には興味がアリアリです。肖像画に返り血、という印象的な構図からするとリルアーナ・ルクレイシアも関わってくるお話になるのででしょうか。
と、これまた気になるところで15巻は終わり、以下次巻でした。ぐえー、きになるー。


●TailPiece


「彼女に対して恋愛感情はこれっぽっちも抱いてないぞ!」
「うん…」
「無理だ…正直」

おまえら全員ちょっとそこに並べ。それと少しわかってる風なカイルもそれはそれでちょっとムカつくからとりあえずそこに並べ。
しかしアレですね、一般候補生は論外にしても、カイルですらイオンの表面的な良さしか挙げていないのはちょっと意外と言えば意外でした。イオンの素晴らしさというものはあまり浸透していないのか…。
でもまあそれはそれで、人の資質を惟わぬ者はイオンにかかわらぬのでむしろ結構という奴ですけども。イオンの隣にはDXと六甲あたりがいればいいと思います。カイルあたりは針金でつなげて火で炙られたりすればいいと思います。